2500年前から

僕が覚えているのは学校から帰った後のことだ.その日学校で何があったかは全く覚えていない.おそらく,部活がなくてそのまま一人で帰宅していたのだろうと思う.その帰り道で彼と会った.

その日は夕焼けのきれいな日だった.雲は一つもなく,空だけがオレンジ一色に染まっていた.

彼は歩道のそばの段差に腰を掛け,近くにあるマンホールをじっと睨みつけながらぶつぶつと何かをつぶやいていた.明らかにサイズの大きすぎる白い洋服を着て,サイズの大きすぎる白いスカートをはき,裾はぼろぼろに擦り切れていた.もしかしたら男性がスカートをはいているのは違和感を感じるべきなのかもしれない.しかし僕はむしろ彼の立派な白いひげに目を奪われた.顎からまっすぐ伸びたひげはきれいですらあった.正直いって僕は臆病な方だ.言いしれない恐怖のようなものを感じて,僕はそっとそばを通り過ぎようとした.

「君はこのマンホールを見てどう思う.」

それが彼が僕に話した最初の言葉だった.その格好に似合わないような低く,しっかりとした声だった.僕は最初質問の意味が分からず,なにより急に自分に話しかけられたことにどぎまぎしていたので何も言わずにいた.

「君はこのマンホールを見てどう思う.」

彼はもう一度聞いた.

「模様がきれいだと思います.」

僕は答えた.実際そのマンホールはその中心から放射状にのびた線が独特ですこしかっこよかった.

「どんなふうにだ」

彼はもう一度尋ねた.

「その,なんというか,光線が出てるみたいで.」

彼はふっと微笑んだ.

「君は私の弟子になりなさい.」

彼は言った.全く訳が分からなかった.反射的に僕の頭の中で,学校で見た「知らない人に~ついていかない~」というメロディーが流れた.

「ごめんなさい.帰ります.」

僕はそのときにはこの老人に親しみさえ感じ始めていたが,このまま話していたら本当にどこかに連れていかれそうだったので,とりあえず話を終わらせようとした.

「私はすぐそこに住んでいる.私の話をきいてくれたらお金をあげるから私の弟子としてそこへ来なさい.」

彼は言った.ますます怪しかった.僕はもう一度怖くなって,彼の言葉を無視して家に向かって歩き出した.すると,ついてくるではないか.僕はもっと怖くなって走り出した.すると彼も走り,僕のうでをがっしりとつかんだ.